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病院に行った理由は、
ほんの小さな体調の違和感だった。
最近続く、めまい。
胸の奥に残る、原因の分からないざわつき。
夫を心配させるほどではない。
念のため診てもらって、何もなければそれでいい。
そう思って予約したのは――
夜19時30分の診察だった。
「奈緒さん、どうぞ」
担当医は、落ち着いた雰囲気の高坂先生。
優しい声。
丁寧な診察。
安心させるような言葉。
最初は、それだけだった。
しかし時間が経つにつれ患者は帰り、
いつしか静かなクリニックに残されたのは二人だけ。
白いカーテンの向こう。
聞こえるのは時計の秒針と、自分の呼吸。
「もう少し詳しく診てみましょう」
医者を疑う理由なんてない。
これは必要な検査。
先生は医者で、私は患者。
――そのはずなのに。
距離が近づくたび、
なぜか消えてくれない胸のざわつき。
そして高坂先生から聞かれた。
「旦那さんは、今日は遅いんでしたね」
その一言から、
ただの診察だったはずの夜が少しずつ変わり始める。
帰ろうと思えば、帰れた。
それなのに私は、
誰もいない診察室でまだ横になっていた――。
優しい夫には、
「大丈夫だったよ」とだけ送った。
あの夜、診察室で何があったのか。
きっと私は、夫には話さない。
夜のクリニックという密室で描かれる、
人妻と担当医、二人だけの秘密の診察。